Hypnotic Trance

「ねぇ、コレってホントにかかってるんだと思う?」

 僕がぼんやりと眺めていただけのTVを、彼女はかなり熱心に見ていたようだ。
 モニターには芸能人達が催眠術師によって奇怪な行動をとらされる様が映し出され、笑いや歓声が起こっている。

「さぁ・・・私にはなんとも・・・かかりやすい人とそうでない人がいるそうですから」
 僕は興味がなさそうにそう答えるしかなかった。
 こんなバラエティ番組なんかよりも他の事に気を取られていたから。

「そう言わずにさ、もし良かったら試してみない?」
 彼女は興味津々の様子で僕の方に身を乗り出して来る。
 タンクトップの深い襟から胸の谷間が覗く。

 腹立たしくなって視線を逸らす。
 僕の目の前でこんなに無防備になると言う事は、僕の事を男として意識していないからなのだろう。
 生まれた時から隣同士の幼馴染。
 いつまで経っても彼女にとって僕は「弟のような2つ年下のお隣さん」でしかないのか?

「試すって・・・催眠術をかけてみたいんですか?それともかけられたいんですか?」
 言葉に刺を含んで答える。
 催眠術?僕は意地でもかかりたくないが、彼女ならかかるだろうか?

「う〜ん・・・そうねぇ・・・ホントはかけてみたいけど、アンタは簡単にかかってくれそうもないモンねぇ・・・上手くかけられる自信もないし・・・」
 考え込む彼女をじっと見詰めながら僕も考え込む。
 もしかして・・・上手くいけばソレを使って僕の悩みは解消されるだろうか?

「ねぇクライス、アンタ上手くかけられる自信ある?」
 彼女に問われて僕は頷いた。
「面白そうですね、やってみましょうか?マルローネさん」



「物真似や踊り出すと言った催眠術よりも退行催眠の方がいいでしょう。忘れてしまった過去の記憶を呼び戻すだけですから」
 僕はこういう事が好きな姉さんの部屋にあった本を読みながら手順をおさらいした。
 幸いな事に時間はたっぷりある、家族は皆それぞれに旅行に出かけて帰ってこないから。
 その為に彼女が食事を作りに来てくれたのだし(と、言っても実際は僕が殆ど作ったのだが)

「そうね・・・子供の時の事なんか殆ど忘れちゃってるから、いい機会かもね〜」
 期待に目を輝かせてソファーの上で胡坐をかく彼女はまるで新しい遊びを始める子供のようだ。
 そう、彼女が忘れてしまっている子供の時の事を思い出して欲しい。

「まず、催眠誘導を行います。ソファーに腰掛けて体の力を抜いて・・・」
 僕の言葉に彼女は素直に従った。
 本には『術者と被験者との間で信頼関係が生まれていなければ術はかかり難い場合がある』とあった。
 彼女が僕を信頼してくれていると言う事は、僕にとってこれからの自信に繋がる。

 ソファーに深く腰掛け、腕の力を抜いて目を閉じている彼女は一見、眠ったように見える。
 眠ったしまったのなら暫く眠らせるのも良い、と書いてあるので5分ほど待ってから声を掛ける。

「マルローネさん、僕の声が聞こえますか?聞こえたならば『はい』と答えてください」
 目を閉じたままの彼女から「はい」と、明るく陽気ないつもとは違う少し低い声で答えが返ってくる。

「これから時間を遡っていきます。貴女の眠っている記憶を呼び覚ます為に。深く深く意識を探って下さい・・・まず2年前、貴女が高校3年生の1学期、始業式の朝です。家を出て最初に目に入ったものは何ですか?」
 退行催眠は少しづつ近い過去から遡っていく。
 まずは2年前から。

「えーっと、家の前には・・・クライスがいたわ」
 目を瞑っている彼女の眉間に皺が寄る。
「あたしを見るなり『トーストを咥えてご登校とは・・・今時はマンガでもありませんよ』とか言ってくれちゃってさ!余計なお世話だっつ
ーの!」
 ・・・確かにそう言いました。

「大体、いくら勉強が出来るからって生意気なのよ!あたしの事、バカにしちゃってさ!年下のクセにさ!」
 彼女は目を閉じたまま憤慨して、僕が目の前にいる事を知ってか知らずか不満をぶちまけ始めた。
 元々、裏表の無い性格なので僕の態度を不快に感じるとすぐ顔に出たが、最近では言葉で何も言わなくなって来ていた。

 退行催眠を続けるには彼女の精神が安定しなくてはならないので、興奮した彼女の気が治まるまで僕は黙って聞いていた。
 彼女が年頃の割に無頓着なので助言しようと思って言った事だったが、あまり歓迎はされていなかったようだ。
 家族からもよく言われるのだが、僕の言い方には刺があるのだそうだ。
 このままだと恋人はおろか友人すら出来ないと忠告されたが、僕の物言いは治らないだろうと諦めている。
 しかし、彼女に「生意気」とか「ムカつく」とか言われたけれど「大嫌い」とは言われなかった。
 一縷の望みはある、と思いたい。

 一頻り、不満を述べ立てた彼女が落ち着いた頃合を見計らって再び催眠誘導に入り、更に過去に遡る。
「・・・貴女は中学一年生です。入学式の朝、家を出ると・・・」
「そーよ!またクライスがいたわ!ランドセル背負って『口元とスカーフにご飯粒がついてますよ。だらしないですね』って、アンタはあたしの親父かっつーのよ!」

 僕が退行する時間を全て言い切らないうちに彼女が猛然と語り始めた。
 確かにセーラー服を着た彼女が大人っぽく見えるのが悔しくてそう言いましたが・・・それにしてもこれは。
 彼女はソファーに背を委ね、目を瞑りながらも怒って文句を言いつづけている。
 両手はギュッと握り拳を作っている。

「判りました、次は小学校の入学式・・・」
「クライスったらランドセル背負ったあたしに『あいうえおは全部書けるようになったんですか?僕は書けますよ』って言ったのよ〜!そんなのこれから習う事じゃないのさ〜!」
 彼女は今までに積もり積もった文句を全て吐き出すかのように叫び続ける。
 毎日毎朝、遅刻寸前の彼女をずっと家の前で待っていた僕の気持ちも知らずに。

「次は幼稚園の入園式」
 投槍に言い放った僕の言葉に彼女は目を閉じたままニッコリと微笑んだ。
「クライシュったらかわゆいのよ〜『マリーしゃんといっちょにいく〜』ってついてちたの」
 今までと打って変わった言葉遣いと表情の変化に驚いた。

「えへっ、クライシュってばね、いっちゅもあたちのあとついてくゆのよ〜トコトコトコトコ、いっちょうけんめゆついてくゆの」
 ニコニコ楽しそうに笑いながら幼児になりきって話す彼女の斜め向かいに座っていた僕はそっと彼女の隣に席を移す。

「いつも後をついて来るクライスが邪魔ではありませんか?」
 彼女の表情の変化を見逃さないようにすぐ隣でじっと見詰めながら尋ねる。

「ううん、だってクライシュってばかわゆいんだもん♪なんでもあたちのまねすゆの!いっちょにおままごともしゅゆの!とってもたのちいの!」
 満面の笑みに頬が赤みをさしてくる。
 僕が彼女の長い髪をかき上げて耳の端に軽く唇で触れたから。

「ではクライスの事が好きですか?嫌いじゃない?」
 ピクリと身体を震わせながら彼女はこっくりと頷いた。
「うん・・・しゅきだよ」

 僕は目を閉じたまま全身を震わせている彼女の顔をこちらに向かせてそっとキスをした。
「私もずっと貴女の事が好きでした。マルローネさん」

 唇を離して彼女の額に僕の額を合わせながら呟くと、真っ赤になった彼女が目を開けた。
 じっと彼女を見詰めている僕の視線とぶつかると慌てて視線と顔を逸らそうとしたが、僕がそれを許さない。

「年下の幼馴染なんか相手にされないとずっと思ってました。貴女が大学に行ってからはいつ恋人を家に連れてくるか心配で・・・でも告白して断られる事が怖かったんです」
 まだ夢を見ているようで信じられない・・・目の前の彼女の温もりを腕の中に抱きしめて強く感じたい。

「あ、あた・・・あたち・・・」
 彼女は喋りかけて口元を覆った。
 今まで喋っていた言葉が抜けきらないようだ。

「なんでしゅか?マリーたん」
 クスクスと笑いながら尋ねると、彼女は顔を真っ赤にしたまま僕を睨んでプゥっと頬を膨らませた。
「意地悪するなら、さっきの言葉は取り消す!」

 僕から身体を引き離そうとする彼女を押さえつけてソファーの上に倒れこむ。
「駄目ですよ、私は一度聞いた事は忘れませんから」
 そしてこれ以上彼女の口から余計な言葉を出さないように、口を塞ぐようなキスをする。

 先ほどの唇を重ねるだけの短いものではなく、唇に吸い付いて口の中を舌で探り続ける長いキスを。
「ん・・・はぁん・・・んん」
 合間に漏れる彼女の声は艶めかしい。
 加えて、僕の下にある柔かい身体の感触・・・彼女が身に着けているのはタンクトップとショートパンツの上下だけ。
 露になった腕や足の感触が僕を刺激する。

 耐え切れなくなった僕はタンクトップの上から彼女の柔らかな胸をギュッと掴む。
 彼女は身体を震わせたが抵抗は無い。
 僕の唇は彼女の唇を離れて、彼女の肌の上を滑り出す。
 彼女の首筋に・肩に・腕に、そして肌蹴た胸に。

「あん!やぁん!やだぁクライス!赤ちゃんみたいだよ!」
 胸の先端に吸い付いた僕に彼女は擽ったそうな抗議の声を上げる。
「赤ん坊はこんな事をしませんよ」
 僕は乳房をキュッと握りながら、舌で吸い付いた場所を舐め回した。
「ああっ」
 彼女は背中を仰け反らせて腰を浮かせる。

 ショートパンツの上から足の間を擦り上げると湿った感触がしてくる。
 ボタンとファスナーを外して引き摺り下ろすと、彼女の腰も上がってそれを手助けしようとしてくる。
 身体の熱が頭と下半身に集中していく。

「ひゃん!やん、やん、やぁん!」
 僕が直に指で触れると彼女の身体はピクピクと跳ねるように敏感に反応していく。
 恥ずかしいのか、腰も引けるようにして。

「マルローネさん、もっと足を開いて」
 指を彼女の中に入れる。
 濡れた1本の指はスルリと入り込む。
 それを2本に増やし、大きくかき回すように動かす。

「やぁっ、痛いよ、クライス!」
 彼女の顔が歪んで泣きそうになっている。
 でもここで優しく出来ない。
 僕の我慢も限界だ。

「もう少し我慢してください」
 僕は濡れた指を引き抜いて、一気に差し入れた。

「ああ〜っ、つ・・・ん・・・んんっ」
 彼女の身体を思い遣る余裕が持てない。
 激しい注送を繰り返してひたすら自分の快楽だけを求める。

「ああ・・・マリー」
 僕のマリー、僕だけのマリー。
 これまでもこれからもずっと君は僕だけのもの。

 荒い息を吐いてガックリと彼女の身体に覆い被さると、腕が痛んだ。
 どうやら彼女が痛みの余り、僕の腕に爪を立てたらしい。
 蚯蚓腫れのような傷が長くついていた。

「ひっどぉい!クライス」
 彼女は涙を溢しながら僕を睨みつけた。
 僕は彼女の長い髪を撫でながら詫びた。
「すみません、次はもっと優しくしますから」

 僕は深呼吸して息を整えると、彼女の涙を舐めとって顔中に優しいキスを降らせた。
「ちょ、ちょっと!次ってすぐ?」
 慌てる彼女の体中に優しいキスを振り注ぐ。
 今夜一晩かけて貴女自身に刻み込まなくてはね、貴女は僕のものだと言う事を。



Postscript

タイトルは「催眠状態」
正確には頭にinがついて「催眠状態に入る」になるのですが、省略。

実はコレは最初、マリーが○学生でクライスが家庭教師か学校の先生で、禁断のイケナイ課外授業をしている話になる筈だったのです(ホンマにアレの読み過ぎやでぇ)
その名残がこの壁紙です。
素材サイトさんでは「Alice」というタイトルがついてました。
壊れた月の欠片が作り出す時計の文字盤・・・ファンタジーっぽいでしょ?

しかし、やはりそんなアブナイ設定ではマズかろう、という事になって、ありそうで余り使われていなかった「催眠術」をネタにしてみました。
そしたらば、思いの外話がスイスイと組み立てられたので。

でもなぁ・・・アレにもコレ系の話って多いよなぁ・・・「トランス状態の女の子を好きにする」のって・・・(滅)
この話はチョット違う・・・と思いたいねぇ(涙)

ちなみに、催眠誘導を行ってから少しづつ年代を逆行させる手順は合っているらしいのですが、ネットで調べただけできちんと勉強している訳ではありませんから、この方法が正しい訳ではありません。
マリーも正しく退行していませんし(笑)
退行催眠は本来、トラウマの治療や前世を知りたいなどという方達のためのものだと伺ってますから、クライスのように素人は挑戦してはいけませんよ。

この話でクライスは言葉に出して話し掛けるときは「私」自分の心の中では「僕」と言っています。
彼がまだ精神的に大人に成り切れていない事を表そうとしたのですが、混乱させてしまいましたか?
別に間違えた訳ではないんですよ。

マリーを退行させるのも最初に考えた年の差カップルの名残(苦笑)
幼児言葉って可愛いですよねぇ。
真っ直ぐに直向な視線で「クライシュ」なんて呼ばれちゃったら!!!
「マリーたん」も可愛い♪♪
スミマセン・・・ちょっと病気が進行してます。

2004.6.23 UP

 

 

 

 

 

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