Little Red Riding Hood




 昔々、あるところにクライス・キュールという優秀な錬金術師がおりました。
 彼は『アカデミー』と呼ばれる錬金術師の学校で常に最優秀の成績をとっていました。

 ですが、成績が優秀であっても真面目過ぎて融通の利かない性格故に友人が少ない事を、彼の姉であるアウラはとても心配しておりました。

 ある日、その姉のアウラからクライスは頼まれ物をしました。

「クライス、このバスケットをイングリド先生に渡して欲しいの。注文されていたランチが入っているのよ。何でもストルデルの滝に採取に行くそうなんですって。私は売店から離れられないから、お願いするわね」

 基本的に優等生であり、目上の人の指示に従順なクライスは姉の依頼を素直に承諾しました。
 そしてランチバスケットをもってアカデミーを出ようとした所で同じアカデミーの学生であるマルローネに声を掛けられました。

「よかったぁ♪アンタを見つけられて。ねぇクライス、悪いけどこれからストルデルの滝に採取に行くんだけど、一緒に付いて来てくれないかなぁ?今回はみんな都合が悪くて誰も付き合ってくれないのよ」
 マルローネはクライスを拝むように頼み込みました。

 クライスは少し困ったように眉を顰めて考え込みました。
 マルローネの依頼を受けても、同じ目的地であるストルデルの滝に向う途中でイングリド先生に追いついて、頼まれたランチバスケットを渡す事が出来るかもしれません。
 ですが、クライスはこの2つ年上であるマルローネが実は少し苦手でした。

 真面目で勉学に勤しんで優秀な成績を収めている自分に対して、マルローネは怠惰で成績も覚束ないのに彼女は対して堪えた様子も見せずに明るく、そしてクライスがあまり得られないでいる友人を数多く持っているのです。
 同じアカデミーの学生である誼で、マルローネに請われて採取に同行する事が今までも何度かありましたが、その度に同行する他の護衛の人達と彼女が交わしている会話に加われずにいると、日頃姉に言われ続けている言葉を思い出してしまいます。
『あなたももっと友達を作れるといいのにねぇ、クライス』という言葉を。
 その言葉は繰り返されるうちに知らず知らずクライスのコンプレックスとなりつつありました。
 しかし、彼女の大きなくりくりっとした青い瞳が懇願するように自分を見上げていると、断りの言葉が出てこなくなるのです。

 今回は姉に頼まれたイングリド先生へ渡すものがあるし、他の護衛の人と彼女が親しくしている場面を見ずに済むのならば、とクライスは思い、マルローネの依頼を承諾しました。

「ありがと♪恩に着るわぁ!」
 マルローネに感謝の笑顔を向けられて、クライスは思わず視線を逸らして俯き、眼鏡を掛け直す振りをしました。
 彼女の笑顔を見ると、動悸がして顔が熱を帯びていくような気がするのです。

「ところで、そのバスケットなぁに?」
 持っていたランチバスケットについて尋ねられ、クライスは姉に頼まれた事をマルローネに教えました。

「へぇ〜ランチボックスかぁ・・・いいなぁ。でもイングリド先生宛でしょ?食べちゃったらマズイよねぇ」
 マルローネの大胆な発言にクライスは驚き、呆れてしまいました。
 他人のものを勝手に無断で食べてしまおうとするとは無作法にも程があると思ったのです。

「ねぇねぇ、イングリド先生には追いつけなかった事にして、これ食べちゃわない?」
 マルローネは物欲しそうに指を咥えて、じっとクライスを見上げました。
 あの、クライスが抗し難い、くりくりっとした青い瞳で。

「駄目ですよ、マルローネさん」
 それでもクライスはマルローネにきっぱりと断りを入れました。
 とても、とても重い鎖を引き千切るような抵抗を感じながら。

「ちぇっ!クライスってば真面目よね」
 詰まらなさそうに唇を尖らせてマルローネがぼやきました。
 その言葉にクライスは胸がチクリと針で突かれたような感じがしました。
 自分は真面目で詰まらない男だと非難されたような気がしたのです。

 マルローネと二人でストルデルの滝に向う途中、彼女は何度となくバスケットに視線を向けてクライスに語り掛けました。

「ねぇねぇ、そのバスケットの中身は何だか知ってるの?」
「ランチって事ならサンドイッチかな?ワインも入ってるのかしら?」
「クライス、お腹が空かない?」
「あたし、今日はミルクを飲んだっきりなのよ〜」

 マルローネの言葉はクライスが彼女の諦めの悪さに少々感服するほどでした。
 クライスの顔を覗き込むように何度も身体を屈ませてクライスの顔とバスケットに視線を向けて来るマルローネに、クライスは次第に彼女が気の毒になって来ました。
 これほど欲しがっているのならば彼女にこのランチバスケットを与えた方がいいのだろうか?と。

 しかし、それではイングリド先生から依頼を受けた姉の面目を潰してしまう事になってしまいます。
 姉に依頼された自分の信用も落とす事になります。

 でもお腹を空かせているマルローネの強い欲求を無視し続ける事はとても難しい事のように感じます。
 全てを上手く収める方法はないのでしょうか?
 クライスは優秀な頭脳で考えました。
 そして・・・

「マルローネさん」
 クライスはごくりと唾を飲み込んで意を決し、彼女に声を掛けました。

「それほどこのランチバスケットが欲しいのならば差し上げても構いませんよ」
 この言葉にマルローネは、ぱぁっと明るい笑顔を見せました。
 クライスには出来ない表情です。
「ホント?」

 嬉しそうなマルローネにクライスは頷きました。
「本当です。但し、私の願いを聞き届けていただけるならば、ですが」

 クライスの言葉にマルローネは喜び勇んで軽く請合いました。
「いいよ、何でも言ってみて♪」

 クライスは拒絶されるとばかり思っていたので、マルローネがあっさりと承諾した事を受けて、一瞬驚き、そして思わず苦笑を漏らしてしまいました。
「そうですか・・・では、マルローネさん。私に貴女を全て見せていただけませんか?」

「???」
 マルローネはクライスの言葉に戸惑いました。

「全て見せて欲しいって?一体どうゆう・・・ヤダッ!あたしの裸を見たいってゆーの?」
 思わずマルローネは真っ赤になって両手で胸元を隠しました。

「いえ、その・・・全てと言ったのは貴女の全てなんですが・・・つもりその・・・どうして貴女は5年間もの長期の追試を受けている最中だというのに、そんなに明るく笑っていられるのか、どうしてあんなに護衛の人達と仲良くやっていけるのか、貴女という人を知りたいと思っているのですが。その中身を全て見せていただきたいと」
 少々口篭もりながらクライスがそう答えると、マルローネは自分の誤解に気付いて今度は恥ずかしさに顔を少し赤らめました。

「あ、そーゆー事?でも、あたしの中身を見たいと言われても・・・どう見せたらいいのかな?う〜ん・・・」
 自分に背を向けて真剣に腕を組んで考え込んだマルローネにクライスは一歩近づきました。
 確かに中身をすべて見るにはどうしたらよいのか?クライスにも良く解りません。
 先程、マルローネが言っていたように彼女の姿を見れば解るものではない筈ですが、その考えはクライスの頭から離れなくなっていました。

 彼女の全てが見たいと、強く願っていた形が少し変っていきました。
 マルローネさんの身体を見てみたい、と。

 彼女の服装はマントを掛けていても、胸元は大きく開かれ、腹を露にし、腰から足に掛けてのラインもはっきりと出るような装いをしています。
 時折、その胸の谷間から視線を逸らせてしまいますが、他の男性が鼻の下を伸ばして見入っている事は良く知っていました。

 彼女の体を全て見て触れる事が出来たら、彼女を理解出来て知る事が出来るだろうか?とクライスは思いました。
 なにより、その身体に触れてみたいという欲求が強く彼を支配し始めていました。

 クライスはマルローネの背後にピタリと身体を張り合わせて立ち、腕組みをしているその手を押さえ込むように後ろから包み込むようにそっと抱きしめて彼女に囁きました。
「やはり尤も手っ取り早いのは、こうして貴女に触れて一つになる事でしょうか?」

 マルローネは、突然クライスに後ろから抱きしめられた事にも驚きましたが、それよりも彼のいつもより低い声の囁きに思わずドキリ、とさせられた事にびっくりしてしまいました。
 その驚きにクライスの言葉の意味も考えず、ただ彼の言葉を繰り返す事しか出来ませんでした。

「一つになるの?」
 呆然としたマルローネの言葉にクライスは拒絶の意思を感じ取る事が出来ませんでした。
 彼女の承諾の意であると思ったのです。

「そうです。マルローネさん」
 クライスはマルローネの長い髪に顔を埋めて、彼女の髪の香りを深く吸い込むと、ゆっくりと自分の手で彼女の胸の上を撫で回し始めました。

 その胸の柔らかな感触にクライスは欲望を高めていきました。
 マルローネはそんなクライスの優しい愛撫に心地よさを感じて、抵抗する事も忘れてしまいました。

「ああ・・・マルローネさん。貴女の身体は柔かくていい匂いがしますね」
 そしてクライスのそんな呟きを耳にする度に、ゾクッと身体が震えて、彼の手が次第に大胆な場所へと愛撫し始めても、彼を止めるどころか抵抗する動きをとる事さえ出来なくなってしまいました。

「やだぁ・・・どうしてぇ?どうしてそんな声で囁いたりするの?クライス。あたし・・・あたし、動けなくなっちゃったじゃない」
 むずがるようにマルローネが漏らした言葉にクライスは驚きました。
 自分は別に何も、薬など使っていないと言うのに彼女のこの態度は何故なのでしょう?

「私のこの声がどこかおかしいのですか?マルローネさん」
 彼女の耳元でそう囁きながら、クライスは普段より少し低く小さい声であるというだけなのに、マルローネの抵抗がなくなってしまった事の原因はなんなのか?とても知りたいと思いました。
 そして、この声で囁いている間なら、彼女を自由に出来る事も知ってしまいました。

「ん・・・わかんないけど・・・その声で囁かれると力が抜けちゃうみたい・・・ねぇ、クライス。マルローネ、じゃなくてマリーって呼んでみて・・・」
 マルローネはクライスに身体を弄られながら陶然とそう呟きました。

 クライスはマルローネの言葉にドキリ、としました。
 以前から護衛の人達や彼女の友達が、彼女の事をそう呼んでいるのを聞いてから、実は密かに自分もそう呼んでみたいと思っていたからです。

「・・・マリー」
 そう呼ぶと彼女と親しくなったような気がするからでしょうか。

「マリー・・・ああ、マリー」
『僕のマリー』とクライスは心の中で呟きました。

 そしてクライスは漸く自分の本心を見出しました。
 友人が多いマルローネの全てを見たかったのではなく、彼女を自分のものにしたかったのだと。
 彼女を疎ましく感じていたのは、彼女の側にいるとまだ自分の感情に気付かずにいた為に歯痒い思いをしてしまうからだと。
 自分は彼女にとても惹かれていたのだと、クライスは漸く気がついたのでした。

「あん・・・クライス・・・」
 マルローネがクライスの愛撫に対して甘い声を出しています。
 その声に煽られるようにクライスの行動は大胆になっていきました。

 マルローネの服をずらして胸を露にし、ツンと勃った乳首に吸い付き、モソモソと脚を擦り合わせている場所へと手を忍び込ませました。
 舌で強弱をつけて吸い、舐め回しながら、ぬるりとした感触を手がかりにその源泉を探り当てるようにゆっくりと指を進めました。

「アン!そこ!」
 彼女の一番敏感な場所を探り当てたクライスは指の腹で振動を与えるように動かし始めました。
 どんな反応をするのか?彼女の表情や声を逃さないように。

「ああ・・・っ、クライス!ん・・・んんんっ・・・イイ、よぉ」
 苦悶の表情を見せ続けるマルローネにクライスは、自分の動きで彼女を翻弄出来る事に夢中になっていました。

 もっと、もっと彼女を感じさせたい。
 もっと、もっと彼女を感じさせ続けたら、彼女はどうなってしまうんだろうか?
 そして自分はどうなってしまうのか?
 クライスは自分の欲望も昂ぶって来ている事を痛切に感じていました。

 些か乱暴にマルローネの下半身から衣服を取り去ると、クライスは自分の服をも脱ぎ捨てました。
 マルローネが自分からクライスの温もりが離れたと感じたのは一瞬でしたが、彼にとってはとても長く、もどかしく感じた一瞬でした。

 そしてクライスがマルローネの脚を大きく広げて分け入った時、彼女は甘く切ない声で彼の名を呼びました。
「ああ・・・クライス」

 その声にクライスはグッと腰を奥まで突き進め、マルローネの視線を捕らえてその僅かに開いた唇に吸い付きました。
 唇を併せて舌を絡ませて、お互いの息すらも全て飲み込もうとするように。

 しかし、腰を動かし始めたクライスの激しい動きに、二人はキスを諦めてお互いの身体が離れないように必死で腕を伸ばして抱き合っている事しか出来ませんでした。
 二人の荒い息遣いが治まったのは、長い夏の日が暮れ始めた頃でした。


「でも、ホントにいいのかな?イングリド先生のランチバスケットに手を出しちゃって」
 そう言いながらもマルローネは口の中に食べ物を放り込み続けています。

「こうなってはイングリド先生に食べて頂けるものを届けるのは無理ですよ。ザールブルグから然程離れていない距離ですし、いっその事潔くザールブルグに戻って、明日出直した方が良いくらいではありませんか?」
 クライスもランチバスケットの中身に手をつけています。

「ダメだよ!ストルデルの滝にはなんとしても行かなきゃ!どうしても『金色の鮭』が欲しいんだモン!」
 家に戻ろうとしたクライスの意見はマルローネの強い反対にあって却下されました。

「ですが、こんな調子で無事にストルデルの滝に辿り着けると思っているんですか?マリー」
 クライスに耳元で名前を呼ばれてマルローネはゾクリと身体を震わせました。

 ローブを脱いだままの黒い上下のクライスはいつもより寛いだ様子で彼女に意味ありげな微笑を見せています。
 そんな彼の様子に、このままザールブルグに戻って二人っきりで寝室に篭るのも悪くない、という思いが彼女の脳裏を過ぎりました。

「で、でも、でも・・・依頼が・・・」
 ふと過ぎった考えを振り切るように頭を振りながらマルローネが意義を唱えました。

「私の依頼を潰しておいて、自分だけ依頼を達成しようとするんですか?貴女は」
 クライスのこの言葉にマルローネは『うっ』と詰まってしまいました。

「でもさ、でも・・・アンタは依頼をフイにするだけの価値がある報酬を得たんじゃないの?クライス」
 マルローネは顔を真っ赤にしながらクライスを軽く睨みつけました。

「報酬ですか?そうですね・・・貴女がこれからもずっと一緒に私と採取に出かけて下さって、これからもさっきのような素晴らしい時を過ごして下さると約束して頂けるのならば、価値ある報酬と言えるでしょうね」

 そうして問い掛けるような視線をクライスから投げ掛けられたマルローネは、暫く視線を彷徨わせてからワインをグッと飲み干して彼の視線から逃れずに答えました。

「あら?それってアンタの報酬になるの?あたしのじゃなく?」

 その言葉にクライスは一瞬、唖然とした表情を見せましたが、顔を真っ赤にして彼から視線を逸らすまいと懸命に努力してい
るマルローネに向けて、彼女がますます顔を赤くするような笑顔を見せました。

 その後、二人がストルデルの滝に向ったのか、ザールブルグに戻ったのか知る人はいませんでした。
 何故なら、二人を見かけたのはそれから2週間以上も経った後だったからです。

おしまい





 

Postscript

 

 当サイト開設3周年記念企画は『童話』です。
 しかし、ここではゲーム世界のオリジナル設定・・・ま、あの世界自体が童話のような中世の時代設定ですけれど。

 このカップリングでどの話にするか悩んだのですが、よく使われている「赤頭巾ちゃん」にしました。
 しかし、マリーが赤頭巾ではチョット・・・彼女には幼過ぎて合わない気がしましたので、クライスにスイッチ(苦笑)

 流石に赤い頭巾は被せられませんでしたが、彼の篭っている殻が頭巾のようですよね?(苦しい言い訳だな)
 お母さんのお遣いならぬお姉さんのお遣い、お祖母さんならぬイングリド先生へのお土産(バスケット)似てませんか?(イングリド先生ごめんなさい)

 狼ならぬマリーの「バスケット」への執着を利用したクライス君の駆け引きはいつものクライスかなぁ(苦笑)

 記念企画へのリクエストではありませんでしたが、リクエスト掲示板に頂いたRS様の「採取でクラマリ」も取り入れてみました(横着モノでごめんなさい)

 採取先をストルデルの滝にしたのは、目的地が少し遠い方がいいかな?と思った事と暑くなって来たので涼しい所でナニを・・・(ドカバキ)アハハハハ・・・(恥)

 赤頭巾ちゃんに食べられてしまった狼さんのお話でした(大笑)
 お気に召していただけたでしょうか?

 しかし、企画の意図を大きく外しているような気がします・・・ま、いっか(無責任)

2005.6.7 up

 

 

 

 

 

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