Atelier Marius 3

2年目12月19日〜2年目8月15日

 2年目12月19日

 武器屋のオヤジに報酬代わりに貰った『星と月の杖』を持ってヘーベル湖に行ってきた。
 すごいぞ、この杖!

 念の為にクーゲルのおっさんとミューにも付いてきてもらったんだけど、ぷにぷにが一撃で倒せちゃったんだぜ。
 この俺に、うっそー!マジ?って感じ。

 いやー、武器(になるのか?杖って)一つでこんなに違うのかぁ、ちょっとびっくり。
 いつも護衛の冒険者が強い武器と防具が欲しいと何気にねだる気持ちが判ったような気がする。
 もちろん、使いこなせなければ意味が無いけどね。

 クーゲルのおっさんはもっと俺が力をつければ、もっと強力な破壊力を持つだろう、なんて言ってたけど、強力な破壊力はともかく、俺に力ねぇ・・・ついて来るのかな?

 錬金術師としては確実にレベルが上がっていると思う。
 だって、あの『魂の秘術』に載っていた『生きているナワ』が出来たんだぜ!

 ふっふっふっ!クラリスに自慢してやる!!
 ああ、でもまた馬鹿にされるかな?何せあの参考書が理解できたのは彼女が一晩中解説してくれたからなんだから。

 気持ちを浮き沈みさせながら飛翔亭に行くと、クレアさんからまたしても呼び止められる。

 ええーっ?また予告状?

「任せて下さいクレアさん。今度こそ捕まえて見せます!何たって今度は新兵器があるし」

 俺は工房へ生きているナワを取りに戻って待ち構えた。

 これは本によると本来梱包用なんだけど、素早い盗賊でも捕まえられるかもしれない。
 さあ、今度は誰に変装しているんだ?

 気を張り巡らせていると赤紫色の長いお下げ髪の女の子がいきなり名乗りを上げた。
「怪盗、デアヒメル参上!クレア・シェンク、あんたの肖像画をいただくよ!」

 こ、今回は素顔を曝してのご登場か!馬鹿にして!
 油断していた怪盗デアヒメルは、あっけないほど簡単に生きているナワに絡め取られて捕まった。
 前回の俺達が間抜けすぎたのか?

 飛翔亭の主人のディオさんが彼女の正体を見破って、更正するように説得していた。
 趣味で泥棒するなんて、俺には理解しかねる考えの持ち主だ。
 とにかく、これで前回の雪辱は果たせた訳だ。よかったよかった。

 俺の活躍を聞いたクラリスは一言。
「やっと人の役に立つ物が作れたと言う訳ですね」

 うーん、ちょっとカチンと来るけど、彼女にしてみれば褒め言葉になるのだろうか?
 素直じゃないヤツだからなぁ・・・ま、俺もあんまり素直じゃないけど。
 ベッドの上ではお互いこんなに素直なのに。


 
2年目12月25日

 アイテム作成に集中していた俺はミューからの依頼に応えられそうな物を完成させた。
 その名も『太陽の首飾り』!
 首から下げていればほかほかと暖かくなるシロモノだ。

 自信満々で彼女に渡すと、『寒さに慣れた』だとぉ?
 せっかく作ったのに、せっかく作ったのに、せっかく作ったのに・・・。
 そりゃ、代金は支払ってくれたけどさ。ブツブツ・・・。

 ちょっと落ち込んでいると、クーゲルのおっさんがやって来て、何だか複雑な依頼をしてきた。
 はぁ、長年仲たがいしていた兄さんと仲直りがしたい、はぁ、素直になるきっかけを作る薬ですか?

 あのう、俺はカウンセラーじゃないんだけど・・・。
 まぁ、おっさんには日頃世話になってるからなぁ・・・いいよ。
 早速、参考書を探さなきゃ。


 
2年目12月28日

 図書館で『笑顔の人生論』という本を見つけた。
 それにしても、アカデミーのこの図書館の蔵書って・・・不思議な物まであるよなぁ。
 うーん、この本で何か作れそうな気がする。

 俺が工房へ戻ろうとしていると、シアが毎年恒例の年忘れ武闘大会の誘いにきた。
 そう言えばそんな時期か、去年はえっと・・・思い出して赤くなった。
 シアにも感づかれたらしくニヤニヤしている。

「今年は私に付き合ってくれるでしょ?」
 俺は真っ赤になったまま、しどろもどろでお断りを入れた。

「ええっと、その、これから調合しなきゃならなくて、依頼されてるから、また来年!」
 ダッシュで逃げ出した、そうでなければこれから冷やかされてからかいの種になるだけだ。

 シアは同じ年なんだけど、小さい頃は俺より身体が大きかったから、お姉さんぶってるんだよなぁ。
 今では当然体格は逆転しているが、小さい頃のトラウマか、シアには頭が上がらない。

 そっか、あれから一年かぁ・・・。
 俺、あの時プロポーズまがいの告白をしたんだよなぁ・・・思い出すと、は、恥ずかしい。
 クラリスは憶えているだろうか?

 そう言えば、俺が好きだと言ったのはあの時だけだし、クラリスからは好きだとか、愛してるとか聞いた事無い。
 俺達って、本当に恋人同士なのだろうか?誘えば拒まないけど。
 クラリスの気持ちを聞いてない事に今更ながらに気づいた。

 確かに彼女は意地っ張りで素直じゃなくて嫌味な事ばっかり言う娘だけど、コメートの原石受け取ってくれたし、そうだよ、あの時『仕方ないですね』って言ってくれた・・・。
 『ちゃんと卒業出来るように頑張れば見捨てない』とも言ってくれたし、俺、頑張ってるよな?
 そうだ、頑張ろう!まずはグーゲルのおっさんの依頼だ。

 クラリスが夕方訪ねてきてくれたけど、追い返した。
 調合に集中したかったから。


 
2年目1月20日

 出来たぁ!
 笑いが止まらなくなるキノコの『オニワライタケ』と睡眠効果のある『ズフタフ槍の水』を『中和剤緑』でブレンドした名づけて『世界に笑顔を』!
 我ながらナイスなネーミング。

 これをクーゲルのおっさんに渡して・・・これをクラリスに飲ませたら、彼女の素直な気持ちが聞けるだろうか?
 俺は猛烈な誘惑に駆られた。

 これをクラリスに・・・その時、ノックがしてクラリスがやって来た!何というタイミング。

「もう調合は終わったんですか?何を作っていたんです?」
 答えられる訳がない。
 俺はクラリスの追及をかわすためにお茶を入れると言って席を外した。

 
マリウスさんは私を避けている。
 暮れに追い返された時は驚いた。
 今までそんなことはなかったから・・・今度こそお終いだろうか。

 テーブルの上に乗っているビンを手に取ってみる。
 ラベルには『世界に笑顔を』?
 これが新作だろうか?
 さっき尋ねても教えてくれなかったアイテムを置き去りにするなんて迂闊すぎる。

 匂いを嗅いで見るが判らないので一口舐めてみる。
 オニワライタケとズフタフ槍の水?自白剤?
 これをマリウスさんに飲ませれば、彼が言い辛そうにしている事が聞けるのだろうか?
 考えているとマリウスさんが戻って来てしまった。

「あー!それは依頼された奴なんだから、手を出すなよ」
 と言って取り上げられてしまった。

 今まで後ろめたそうにあまり喋らなかったのに、戻ってアイテムを取り上げた途端、以前と同じような調子に戻った。
 アイテムを私に知られて気負いが解けたのだろうか?
 いずれにしても解りやすい人だ。

「この間はゴメンな、こいつに集中したくてさ」
 彼の腕が私の腰に回される。
 その一言で私の不安が消し飛んでいく。
 何て単純な。

 彼の腕の温もりに冷たい仕打ちも許せてしまう。
 私はそんなに彼に夢中なのだろうか。
 悔しい、私ばかり。
 でも、これが恋・・・なのだろうか。
 決して対等になることがない。
 いつもどちらかに傾いているというけれど。

 私と彼はいつも素直な気持ちを言葉にしないからお互いの心の中で常に片方に傾いているのかもしれない。
 それでも続いているのは、この行為が辛うじて存在するから。

「あっ、クラリス、ダメだ、もう・・・」
 彼が私の口の中で膨れ上がって収縮する。
 飲み込んだのは媚薬か催淫剤か。
 腰が知らず知らずのうちに揺れて欲しがる、彼を。
 彼が私の中に居る時だけは彼は私の物だから。



 
2年目3月8日

 どうして、どーして今更ねずみが出てくるんだ!!!
 せっかくのシャリオチーズをねずみに食われてしまって、俺はとても憤慨していた。

 確かに俺の工房は汚い、クラリスが『ゴミ溜めですね』と言う位汚い。
 しかし、今までねずみなんて出てこなかったのに!
 チーズの強烈な匂いに惹かれて出てきたのだろうか。

 折りしも今日はアカデミーのセールの日だ。
 今まで買えなかった器具が全部揃えられるかも知れない。
「えーっと、『天秤』と『ガラス器具』と、あ、『ねずみとり』もあるんだ、それも下さい」

 ああ、お金が無くて指を咥えてショップを覗いていた時が夢のようだなぁ・・・ありがとう、依頼してくれた人達。
 君達からの報酬は俺が錬金術師になる為にとても役に立ってます。

 ついでに材料を幾つか補充して帰ろうとしたら。
「あの、ちょっといいかしら」
 ショップのお姉さんに呼び止められた。

「あなた、クラリスと付き合っているんでしょう?」
 ど、どーしてそのことを!そう言えば、前にもこのお姉さんからクラリスのことを聞いた事があるような・・・。

「あの子のことどう思う?」
 どうって、そりゃあ・・・好きだから付き合ってるんだけど、ちょっと素直じゃないよな、可愛げが足りないというか。

「そうなのよ、私も姉として心配しているんだけど、ちょっと人との協調性が足りないというか、あなたと付き合って少しは変るかしらと思っていたんだけど、あんまり変らないみたいだし」
 ちらりと俺を睨みつける。

 どえー、クラリスのおねえさん、だったのか。
 クラリスの奴ゥ、今までそんな事一言も言ってなかったぞ。

「ねぇ、何か人と上手くやっていけるような薬なんて無いかしら?」
 うっ、どきっ!クーゲルのおっさんと同じ様な依頼、この間俺が考えていた事と同じ。
 あの時は結局、依頼の品だからと手を付けるのを止めたんだ、それに。

「薬で性格を変えるのは良くないと思いますよ、薬は所詮一時的な効果しかもたらさないし」
 俺はあの時もそう思ってクラリスに薬を飲ませるのを止めたんだ。

「そう、ね・・・でも、一時的でも愛想のいいクラリスって見たくない?」
 ああ、弱い所を突いて来るなぁ・・・それは、見たいけど。

「すみません」
 お姉さんの依頼は断った。

 果たしていつまで『世界に笑顔を』を使わずに居られるだろうか。
 使うべきか使わざるべきか、悩みながら歩いていた俺は町の通りで女の子とぶつかってしまった。
「あ、ごめん」
 ぶつかった子も余所見をしていたらしい。
「こちらこそごめんなさい」
 丁寧な口調、よく見ると可愛い子だ。
 金髪で青い目、人形みたいに造りの良い顔。
 妹が居たらこんな感じかなぁ。


 
2年目4月6日

 王立騎士団の討伐隊が出発したとシアから聞かされて1週間、俺はまだザールブルグにいる。
 なぜなら、行商の妖精さん、パテットを待っているからだ。
 シャリオミルクは奴からしか手に入らないもんね。

 パテットが来たら、今度はどこへ採取に行こうかなぁ・・・今、特に何か足りない物とか欲しい物が無い。
 そうだ、妖精の森に行ってみようか、お金にかなり余裕が出来てきたし。

 俺は少し、良心の呵責を感じつつそう思った。
 何故なら、武器屋のオヤジに2回も育毛剤を依頼されながら、効果があまり長く持たなかったのだ。
 あれって、失敗作だったのかなぁ・・・それとも武器屋のオヤジの体質のせいかなぁ・・・。
 オヤジは気前良く報酬を払ってくれたけど、少し気になる。

 図書館で読める本を探そうとアカデミーに行くと、白い髭のオッサンとぶつかってしまった。
 あの人、どっかで見たこと在るような・・・誰だっけ?
 あ、図書室に入っていく!後をつけて見よう。
 あれ、いない!どこにいったんだ?
 おや?この棚、動くぞ!うんしょ、ありゃ、隠し部屋?
 あ、さっきのおっさん!え?校長??す、すみません。

 それにしても、本が一杯だぁ・・・えっ!ここの本見ても良いんですか?
 ありがとうございます。
 今日のところは何も読まずに追い出されてしまったけど、やった、これで卒業課題用のアイテム作りのヒントが得られるかもしれない。
 校長の書斎だもんなぁ、きっとすごい参考書があるに違いない。


 
2年目4月17日

 妖精の森に行って、校長先生を小さくしたような妖精族のジジィならぬ長老に会って、妖精さんに手伝いに来てもらった。

 まずは燃える砂の作成。
 火の属性のアイテム作りには欠かせない、尚且つ大量に消費するアイテムだからなぁ。
 頼むぜ、紺の妖精さん。

 俺は慌ただしくストルデルの滝へ向かう。
 今年でクラリスも卒業するので忙しいらしく、結局会えないままだった。


 
2年目5月6日

 さすがに立て続けに採取に行くと少し疲れる。
 妖精さんは期待に応えてくれた。
 次は中和剤赤をお願いする。

 アカデミーに行くと校長先生の書斎ではまだ読める物がなかったが、図書館で読めそうな本を見つけた。
 それにはコメートの精製方法が載っている。

 これで、クラリスに・・・でも、指輪を贈っても卒業できる見込みがなくては受け取って貰えないかもしれない。
 もう一つのミスティカティの製作に入る。
 これって、逃げてる?
 どうだろうか?わからない。


 
2年目5月10日

 武器屋でグラセン鉱石が思っていたよりも高く売れた。
 金に困らなくなると収入も多くなってくるって言うのは不思議だなぁ。
 アイテムもレベル6まで成功している。
 後は数をこなして成功率を高くしていくべきだろうか。

 飛翔亭からアカデミーに行く途中で前にぶつかった事のある女の子とまたぶつかった。
「あれ、君、確か前にもぶつかったよね?」
 そう聞くと。
「えっ?気のせいじゃありませんか」
 と言われてしまったが、絶対に前にもぶつかってるって!
 俺は記憶力は良いんだから。
 ヘンな子。


 
2年目5月23日

 相変わらずクラリスが来ない。
 その代わりにシアがやって来て国王誕生会に行かないかと誘われた。
 まぁ、いいか・・・って、何処行っちゃったんだよシア!
 もう、はぐれるなんて、それにしても凄い人だなぁ・・・おっと、危ない、あれ?

「君は?」
 この前ぶつかった子、服装が全然違うけど、すごいドレスだなぁ。
「すみません、失礼しました」
 彼女も気づいているようだったが、何せこの人込みだ、あっという間に見えなくなってしまった。

 それにしても、お姫様のようなドレスを着ていたなぁ。
 貴族のお嬢さんだろうか。

 クラリスもあんなドレスが似合うだろうに、肩と胸の空いたドレス。
 眼鏡を外して、化粧をしてドレスアップして、長くなった髪を結い上げて、夏祭りで一緒に踊りたい。

 俺はダンスには自信があるんだぜ、シアの練習にさんざん付き合わされたからな。
 何だか人恋しくなって、飛翔亭で飲んで騒いだ。
 調合用のワインに手をつけなくても酒が飲めるようになったよなぁ。
 すっかりいい気分になって、どうやって帰ったのか良く憶えていない。


 
もうすぐアカデミーの基本課程が終了する。
 その後どうするか、先生はマイスターランクへの進級を薦めてくれる。

 マイスターランク・・・姉さんが進めなかった憧れのクラス。
 そこに進む為に頑張ってきた。
 でも、マイスターランクへ進めばマリウスさんと会う時間が益々減ってしまう。
 私はどうすればいいのだろう。

 夜、やっと時間が空いたので工房へ向かう。
 久しぶりだ、48日ぶりにマリウスさんに会える。

 工房に行くと迎えてくれたのは妖精さんだった。
「マリウスは飲んだくれて寝てるよ、お姉さん誰?」
「わ、私はクラリス・キュールと言います・・・」

 初めて見る妖精さんに驚いていた私を見て、妖精さんは目を輝かせてドアを大きく開けてくれた。
「クラリス!知ってる、マリウスの恋人でしょ?入って」

 妖精さんはパタパタと工房を走り周りながら。
「マリウスがいつも言ってるよ『クラリスに会いたい』『クラリスはどうしてるかな』って」
 くすくす笑って赤くなった私の顔を見る。

「お姉さんも物好きだよねぇ、マリウスの何処が好きなの?顔はいいけどドジでだらしないよね」
「あなたには関係ないことです、彼は上ですか?」
 可愛い容姿に騙されそうになりましたが、聞いていた通り、妖精さんは詮索好きで口が悪いようです。
 妖精さんを無視して二階に上がろうとすると。

「僕、これから出掛けるから、お姉さんゆっくりしてってね、朝まで帰らないから」
 意味ありげにウインクして妖精さんは出て行った。

 気を利かせたつもりでしょうか、でも酔いつぶれているなら顔を見るだけで帰るしかありませんね。
 二階の寝室に入ると、ベッドの上で毛布も掛けずに横になっているマリウスさんが見えました。

 夏が近いとはいえカゼを引いてしまいます。
 毛布を掛けて顔にかかった髪を払い唇にキスを落とす、酒臭いですね・・・。

「んー、だぁれ?あー、クラリスだぁー」
 マリウスさんが目を覚ましました、久し振りですから彼が起きてくれてやっぱり嬉しいです。

「どうして来なかったんだよぉ・・・待ってたのにぃ」
 彼はそう言って私をベッドに引きずり込みました。
 トロンとした目元、呂律が回っていない口調。

「酔ってますね、マリウスさん」
「えー、酔ってないよー、へへっちょっと飲んだけどぉー」

 彼はすっかり酔っ払っているようで、それでも私の胸に顔を埋めて頬擦りしている。
 酔っていても久し振りの彼の感触に私は止めさせることが出来なかった。
 彼の服を脱がせて、自分の服も脱いでいく、酔っている彼の動きを邪魔しないように。

「クラリスゥ・・・して」
 彼はもう自分で動けなくなっているようでした。
 本当はこのまま止めてしまった方が良いのかも知れませんが、私には出来ませんでした。

 彼が欲しくて、触らなくても濡れているのを感じていましたし、彼のモノも熱く勃っていました。
 私は胸でソレを挟みながら先を口で咥えて舌を這わせました。

「ああーっ、クラリスゥ・・・イイ!」
 彼はそうされる事が好きなようです、もう先から零れ落ちてきています。
 私も彼のモノを手や体で玩ぶのは好きです、私の思うままに彼を翻弄できるから。

「もうダメ!出る!」
 口でぐっと咥えて彼の迸りを飲み干す。
 汚いとか嫌だとか思わない、彼のものなら全て欲しい。

「クラリス・・・」
 彼の手が私の体に伸びてきて促される。
 起き上がれない彼に跨って、さっきから求めていたものを埋める。

 ああ、マリウス・・・ずっとこうしていたいのに、どうしていつも一緒にいられないの。
 彼の上で腰を狂ったように振っていく。
 彼の手が胸をギュっと揉みしだく、思わず声が出る。

 酔ってぼんやりしている彼がにっこりと微笑む。
「へへっ、クラリスの声ってカワイー、もっと聞かせて」

 彼の笑顔に胸がときめく、こんな関係になって長いのにまだまだ彼に引かれていく自分がいる。
 呆れるほど貪欲で果てがないこの感情。

「マリウス・・・」
 彼の指が私の一番感じる所を摘まみ上げる。
「ああーっ、ん」
 彼のモノを締め付けると私の中に注がれる熱い液体。

 彼はすっかり眠りに落ちてしまったようだ。今夜のことは覚えていないかもしれない。
 気だるい体を引きずるようにして何時もの様に彼の後始末をする。

 彼は僅かずつだが確かに進歩している。
 私にも作れないようなアイテムを開発している。
 もしかしたら3年後に彼もマイスターランクへ上がれるようになるかもしれない。
 そうしたら一緒に錬金術の研究を続けて行ける。

 マイスターランクへ行こう、そして少しでも彼の手助けが出来る時間を作ろう。
 彼に必要とされる存在になりたい。



 
2年目5月24日

 昨夜はイイ夢見たなぁ・・・クラリスと・・・でへへ。
 何処に行っていたのか、妖精さんが昼前に帰ってきた。

「コラ!勝手に遊びに行っちゃダメじゃないか」
 と怒ると。
「えー!ちゃんとクラリスに言っといたよ、せっかく気を利かせてあげたのに」
 何?するとあれは夢じゃなかったのか!
 すごーく久し振りの逢瀬だったのに、どうして俺は酔っ払っていたんだぁ!俺のバカ!!

「それにしても、お兄さん趣味悪いね。あんなメガネの性格悪そうな娘がイイの?」
 妖精さんは可愛い顔して口が悪い、いや、正直すぎると言うべきか。
「フッ、アイツの良さは他人には判らないのさ」
 そう、クラリスの良さがそう簡単に判って堪るか。
 おかげでライバルが少なくて助かってるんだからな。

 それにしても、酔っ払っていて夢現だったとはいえ・・・やっぱりクラリスは可愛い!
 俺は躊躇していたコメートの精製を始めた。
 単純だって言わないでくれ!
 どうして悩んだりしたのだろうか、俺が彼女を好きなのは確かなことなのに。

 この長い卒業試験を乗り切って、彼女と二人で錬金術の勉強を続けていければいいなと思う。
 今のこの気持ちに素直になればいいんだ。


 
2年目6月10日

 俺はたまに解放されている王宮の庭をぶらつくのが好きだ。
 きちんと手入れされた庭を見ながらぼんやりと過ごす、
時たま王宮に入り込みそうになって騎士団のお兄さんに怒られるけど。
 今日もぼーっと歩いていたらいつの間にか建物の中に入っていた、やばい引き返そう。

「あら、あなたは」
 女の子に呼び止められる、あれ、この子。
「何度か街でお会いしましたわね?私、王女のブレンダです」
 ええー!王女様?見えない・・・いや、失礼。

「実は何度か城を抜け出していたんですけれど、周りを見渡してばかりいたもので余所見が多くて人にぶつかってばかりで、ごめんなさいね。同じ年頃の友人が欲しかったんですのよ、よろしければこれから会いにいらして下さいな」

 勝手にそう言ってなんと謁見室への通行許可証をくれた。いいのかな。
 ブレンタ王女と言えば第一王女でこの国の跡継ぎじゃなかったか。
 そんなに簡単に一般市民に謁見を許していいんだろうか?
 まぁ、くれる物は貰っとくけど。


 
2年目6月28日

 シアが蚤の市に誘いに来た、相変わらず胡散臭いよなぁ。

 おや、あれは・・・怪盗デアヒメル・・・じゃなかった、確かナタリエとか言ったかな本名は。
 冒険者に転職したとか言ってたけど、何を売っているんだ?

 ふーん、あ、湖光の結晶があるじゃないか、じゃあコレを貰うよ。
 今年は少し収穫があったな。

 図書館に寄ると校長の書斎で初めて読めそうな本に出会った。
 『イングリド文書』って、イングリド先生の書いた本?
 俺が書いている図鑑もこんな風に本に出来るようになるといいけど。


 
2年目7月15日

 参考書のおかげで作れるアイテムがレベル6から7に上がってきている。
 よしよし、順調だ。

 妖精さんはうるさいから採取に行ってもらっている。
 調合のときは集中したいからなぁ。

 あ、お客さん?おや、王女様。
「最近、母が園芸に凝っていて、『植物栄養剤』を作って頂けます?」

 はぁ、イイですけど、相変わらずお城を抜け出しているんですねぇ。
 一国の王女がいいんですか?そんなことで。
 王女様が直々に依頼に来るなんて言っても誰も信用してくれないだろうなぁ。


 
2年目7月25日

 王女様はいつ取りに来るか言っていなかったので(そりゃそうだ、いつ抜け出せるか言えないだろう)、取り合えず仕上げておいたものを今日やっと取りに来た。

「ありがとう、助かりました」
 にっこり優雅に微笑んで銀貨1,000枚を置いていった。
 金持ちめー。

 彼女が出て行く時、クラリスが来た。
 クラリスと擦違いざま、王女様はにっこり笑顔を振りまいていかれた。
 まぁ、愛想を振りまくのは王族の役目みたいなものだよな。

「今の人は?」
 クラリスの問いに俺は正直に答える。
「聞いて驚け、ブレンダ王女だ」

 クラリスは眉間に皺を寄せて馬鹿にしたような視線を投げる。
 そりゃそうだ、俺だって未だに信じられない。
 でも、クラリスは何か考え込むように黙ってしまった。

 そうそう、
「クラリス、この間は悪かったな。その、酔っ払ってて・・・」
 そう、彼女が来るのはあの時以来だった。
「え?いいえ」

 クラリスは物思いから現実に帰って恥ずかしそうに応えた。
 そりゃ恥ずかしいかもしれない、酔っ払ってほとんど意識のない俺の相手をしてくれたんだから。

「今日は酔ってないから」
 俺がそう言ってにっこり笑うと、クラリスは俯いて赤くなった。
 ベッドの中での大胆さが嘘みたいな初々しさだ。
 そこも可愛いけど。

 まだ陽は高いが、クラリスを抱き寄せて、キスをする。
 うーん、この腕にすっぽりと収まる感覚・・・久し振り。

「妖精さんは?」
 クラリスが腕の中で聞いてくる。
「採取に行ってる」

 受けている依頼は全て終わってるし、今日は心置きなく。
 俺はクラリスを抱き上げて寝室へ上がった。
「この前の埋め合わせをするからさ」
 彼女の耳元でそう囁いて、ゆっくりとベッドに下ろした。
 そして、顔だけを離さずに唇を塞ぐ。

 角度を何度も変えてキスをする。
 離れた時には二人の間に銀色の糸が出来るほど。
 お互いに酸素を求めて大きく息を吐く。

 いつもならここで服を脱ぎ合うのだが、俺は起き上がろうとしたクラリスの肩を押さえて横たえたまま、ローブを捲ってズボンを引き摺り下ろした。

「マリウスさん?」
 いぶかしむクラリスに微笑んで、彼女の両足を肩に乗せ、足の間に頭を入れる。

「あっ!」
 露になった花弁に舌を伸ばす。
 もうそこはしっとりと濡れて光り、誘っていた。
「やぁん」
 舌を滑らせただけでクラリスは可愛らしい声を上げる。

 もっともっと聞かせて・・・舌を奥へと潜り込ませて探る。
「はぁん、マリウスぅ・・・」
 クラリスが切なそうな視線を送ってくる。

 もっとして欲しいの?それとも、もう俺が欲しい?
 クラリスの蜜は甘くていつまでも味わっていたいけど、俺も我慢出来なくなりそうだ。

 まだ着ているクラリスのローブとシャツを一気に脱がしして、彼女の蜜にまみれた顔を彼女の顔に近づける。
 クラリスは自分のモノで濡れている俺の顔を嘗め回して行く。

 彼女の舌が首筋まで伸びてくる、俺は彼女の右足をグィと持ち上げて花弁を広げる。
「いい?」
 クラリスはコクンと頷いて俺の肩に腕を回してくる。

 俺もクラリスもその時を待ち侘びていて、吸い込まれるように入り込むと、一瞬息を吸ってからほっと息を吐く。
「はっはっはぁっ」
「あっあっあぁん」
 俺とクラリスは息と声と腰の動きを合わせて高みに上っていく。
 荒い息の合間にキスを交わす。

 そしておとずれる絶頂。
 二人して荒い息が収まるのを待ちながら、クラリスの体をそっと抱き寄せる。

「クラリス、もう卒業だろう?どうするんだ?」
 アカデミーで4年間の課程が終了すると一応卒業が待っている。
 まぁ俺はそこで引っ掛かって追試の最中な訳だが、普通の生徒は卒業してアカデミーを出て行くか、マイスターランクに上って研究者になるか、アカデミーの講師になるか、幾つかの道がある。

 主席のクラリスなら、後者の何れかだろうけれど。
 汗で額に張り付いた髪をかき上げてやると、ぼぉっと天井を見ていた視線を俺に向ける。
「マイスターランクへ進みます」
 やっぱり・・・これで、俺と彼女の差は益々開いてしまうわけだ。
 仕方ないな。

「そっか」
 俺は起き上がって、部屋の隅を探す。
 確かここら辺に・・・あった。

「これ、約束のもの」
 この間精製したコメートで作った指輪を渡す。

「俺はまだ卒業試験が半分も終わってないけどさ、コメートが作れるようになったし、卒業祝いってことでやるよ」
 うーん、何かケースにでも入れられれば良かったんだけど、裸のまま渡すのってムードがないかな。

 クラリスは掌の指輪をじっと見つめている。
「あー、デザインとかあまり突っ込まないでくれ、俺ってセンスがないんだ」
 あまりにも反応がないので不安になる。
「気に入らないか?」

 クラリスは俺をじっと見るが、相変わらず表情が読めない顔だ。
「これは受け取れません」
 あー、覚悟していた答え。しかし、クラリスは指輪を握り締めて離さない。

「マイスターランクへ上がれば忙しくなります。マリウスさんだって工房の依頼が増えてきているし、私達今までよりももっと会えなくなります」
「うん、そうだろうな」
 確かに飛翔亭に行かなくても直接工房まで依頼してきてくれる人が増えている。

「これからどうなるか判らないのに、貰えません」
 それって別れたいって事じゃないよな、なら。
「イイじゃないか、これからの事なんて。俺がこの指輪を作ってお前に渡したのは、お前に持っていて欲しかったからだ。約束した時と同じ様に。もう欲しくないって言うなら仕方ないけど、そうじゃないなら貰ってくれ。要らないと思うまでは」
 クラリスの握り締めた掌をその上から更に包み込む。

「これは俺の今の気持ちだから、受け取ってくれ」
 クラリスは一瞬潤んだような瞳を向けたが、すぐに俯いてしまった。
「・・・仕方ありませんね」
 前と同じ答え、相変わらず素直じゃないコイツの答えが愛しいと思う。

「ホラ、貸して見ろよ。はめてやるからさ」
 クラリスの手から指輪を受け取って、彼女の左手の薬指にはめようとして・・・。
「ありゃ?」

 サイズが全然合わない。
「オマエ指小さすぎだぞ!」
 女物だからと思ってかなり小さめに作ったのに、それでも大きいなんて。
「サイズを確かめないなんて迂闊すぎます、台だってガタガタじゃないですか」
 クラリスも負けていない。

「だって、彫金は苦手なんだよ」
 とほほ、これじゃ受け取る受け取らない以前の問題だな。
「私は彫金も得意です。石だけ頂いて作り直しましょうか」
 ちぇっ、それじゃ意味がないじゃないか。
 そりゃあそうしたほうが一番良いんだろうけどさ。

「好きにしてくれ」
 俺は自棄になってそう呟いた。
 クラリスはぶかぶかの指輪をはめて眺めている。
 もしかして嬉しいのかな。
 笑顔じゃないから判らないけど。

 指輪を彼女から取り上げて、髪を結んでいた紐に通して、彼女の首に掛ける。
「これで我慢してくれ。石はまた別に渡すから」
 この指輪は不恰好でサイズが合わなくても俺の気持ちがこもっているんだから。
「仕方ありませんね」
 彼女はそう言って俺に抱きついて来た。

 俺は素直じゃない唇を塞いだ。
 ここはベッドの上で、二人は何も着ていなくて、夜はまだまだこれからだから。


 
2年目8月15日

 シアが夏祭りの誘いに来た。

 人込みに当てられて気分が高揚したのか、悪乗りした俺達は、懐かしい肝試しなんぞにチャレンジしてしまった。
 墓場を怖がらずに歩くだけのシロモノだったが、結果は・・・聞かないでくれ。

 息を切らせて工房に戻ると、クラリスが来ていて、(肝試しは黙っていたが)シアと夏祭りに行っていたことを話そうとすると。
「今日は依頼があって伺いました」
 と言うではないか、ギックン!

 クラリスはシア程ではないにしろ、極々偶にアイテムの依頼をしてくる。
 それも、俺が理解できないような高度なアイテムを。

 一回だけ引き受けられたものもあったが、大抵名前すら知らないような物ばかり依頼してくる。
 今回はどっちだ?

「液化溶剤?」
 聞いた事がある・・・けど、想像もつかない。
 クラリスに会うのは久し振りだったけど、これでは・・・。

「知らないんですか?では無理ですね」
 そう言って帰ってしまった。
 こういう時のクラリスはとてもクールで厳しい・・・しくしく。

 
 

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