Sacrilegious
ガラリ、と戸が開いて入ってきた人物は困ったような顔をして溜息を吐いた。 「校内は禁煙ですよ、小松先生」 コイツは昔から、真面目で融通が効かない。 「こう言わずに、見逃して下さいよ。中島センセ」 ウインクなどして媚を売ってみるが、咥えていた煙草は取り上げられて、狭い準備室の窓が大きく開けられる。 「寒いんですけど・・・センセェ」 ピューと冷たい風が吹き込んで、思わず寒気が走る。 「まったく、もう・・・不良学生のような真似は止めてください」 コイツに叱られる日が来ようとは・・・思わず笑みが零れる。 「何が可笑しいんですか?」 益々不機嫌な顔になる。 「いや・・・オマエも立派な教師になったモンだと思ってさ」 しみじみと感慨深く呟いた俺の言葉に、彼女は俺から視線を外して、俯いてしまった。 「それは・・・皮肉ですか?」 なんだ?その反応は。 「悩み事でもあんのか?」 彼女が初めて受け持ったクラスでは特に問題があるとは聞いていないが。 「いえ、悩みと言うほどでは・・・ただ、まだ自信が持てないだけです」 やれやれ、例によって思い込み過ぎの考え過ぎか? 困ったヤツだな。 チョイチョイ、と手招きをすると、彼女が近寄って来る。 そして傍らに立った彼女の腰を抱き寄せて、膝の上に強引に坐らせる。 「小松先生!」 彼女は抗議の声を上げるが、そんなものに耳は貸せない。 「二人っきりの時は、名前で呼べって言ってるだろ?陽子」 グッと顔を寄せて囁いてやると、彼女は顔を真っ赤に染める、可愛いヤツだ。 「ここは学校ですよ?」 なんだい、いまどき学校は神聖な場所だとでも言うのかい? 「そうだな、ここは学校だな。俺とオマエの仕事場だ。だが、授業は終わってる、勤務時間は終了だ、仕事も残っていない、ここは教室でもない、生徒ももうやって来ないだろう。なら何を遠慮する事がある?」 俺はそう言いながら、彼女のブラウスのボタンに手をかけて外し始める。 「あなたも相変わらず、ご自分の勝手な理論を押し通す方ですね、尚隆」 陽子は苦笑しながらも抵抗はしない。 「そうさ、俺は自分の欲望に忠実なんでね」 肌蹴た白い胸に顔を埋めながら呟いた俺の言葉に、陽子はクスクスと笑い出す。 「そうでした。あなたは教育実習中にも関わらず、生徒に手を出す人でしたね」 陽子は俺の頭を抱えながら笑い続けている。 「誘いに乗った生徒は悪くないのか?」 共犯だろ?俺とオマエは。 「あなたを反面教師にして来たつもりなんですが・・・ご自分のペースに押し流そうとするあなたに引きづられる私は教師失格でしょうか?」 抱えられていた頭を両手で持ち上げられて対峙させられる。 肌蹴た胸を曝したままで、そんな顔をするなよ。 優しく微笑んでみせたりするな。 全て許そうとするような、そんな寛大な顔をするんじゃない。 この場でメチャクチャにしたくなるだろう? 俺は陽子の髪をグッと鷲掴みにすると、顔を強引に近づけさせて、強く唇を吸い上げる。 一瞬、驚いた顔をしていた陽子だったが、すぐに目を閉じて、唇を開き、舌を絡ませてくる。 そう、高校生の頃から、コイツには色々と教えてきた。 陽子は素直で物覚えがいい優秀な生徒だった。 勉強も、そしてコッチの事も。 「ああ・・・尚隆・・・」 ったく、俺がゾクッとするほど色っぽい声を出すようにまでなっちまいやがって・・・優秀過ぎるのも考えものだぜ。 ま、もちろん、教えた事を後悔しちゃいないが。 「陽子・・・もっと腰を動かせよ」 椅子に坐ったままで激しく突き上げていく。 もう寒さは感じない。 「もうこんな場所ではダメですよ」 陽子は俺を嗜めるように言うが、こんな場所だからこそいいんじゃないか。 「そうそう、オマエのクラスの委員長だけどな。ありゃオマエに惚れてるから意識し過ぎて避けてるんだぜ」 気にしてるのはその事だろう? 「え?」 陽子は俺の言葉に唖然としている。 思っても見なかったんだろう? 「今まで纏わりつくようにベタベタしていたくせに、最近急に避けられたから気にしてたんだろ?アイツはオマエのことが好きなんだよ」 なのに俺という存在があるからな、気の毒なヤツだぜ。 「そんな・・・彼は・・・」 オマエと同じで真面目で堅物だからな、お気に入りだったんだろう? でもな、ヤツだって男なんだぜ。 「だから、ちゃんと言い聞かせてやったのさ。オマエには俺という恋人がいるってな」 期待させちゃ可哀想だろう? 「尚隆・・・あなたと言う人は・・・なんて事を!」 ヘタに隠してると不味いだろう? これからだって、そんな輩は出てくるに決まってるんだからさ。 「言わない方が良かったのか?アイツの思いを受け止めてやるつもりだったとでも?」 そんな事をこの俺が許すとでも? 「それは・・・それでも、私は生徒を傷つけるような、あなたのやり方には納得出来ません」 意固地なオマエも可愛いな、陽子。 でも、俺がオマエを手放すつもりはない内は無駄だぜ。 恋敵はどんな手を使ってでも蹴散らしていかないとな。 この先生は結構鈍いから、気がつく前に片付けられそうだが。 「そんな怖い顔をしてると、美人が台無しだぜ」 怒った顔も悪くはないけどな、やっぱり笑っている顔が一番だよな。 陽子は、はっとしたように一瞬表情を改めようとするが、思い直したようにまた眉を吊り上げる。 「小松先生!生徒に私のプライバシーを話すのはやめて下さい」 「オマエのプライバシーは俺のプライバシーでもある。そうじゃないのか?」 俺の言葉に陽子は言葉に詰まる。 「あの時から・・・初めて会った時からそうじゃないのか?」 陽子の耳元でそう囁く。 そう、初めて会ったあの時から、オマエは俺のもので、俺はオマエのものになっちまったんだぜ。 覚悟が足りないな、陽子。 |
Postscript
30万ヒット記念企画のリクエスト第2弾として風流サマよりいただきました。 十二国記で尚隆X陽子です。 タイトルは「聖域を冒涜する」 教師の二人です。 私、念願のパラレル設定です。 この学校では、あの世界の王が教師、生徒はその国民で、という設定にしてあります。 ですから、陽子のクラスの委員長さんは景麒かな? すると尚隆のクラスは六太が委員長? 恭は逆でもいいですよね(笑) 文姫は保健室の先生なんてどうでしょう?(果てしない妄想) しかし、あまり細かく設定していないので(例えば尚隆と陽子の教えている教科とか)この続きを書くのは難しいかもです。
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