やさしいキスをして



その日もいつもと同じように始まった。


朝、起きて制服に着替えて妹と一緒に朝食をとって途中まで一緒に登校する。
両親はまだ寝ているらしい。
忙しいのは判るけど、昔は朝食ぐらいは一緒にしていたのに最近は顔もあまり見かけていない。

満員電車に揺られながら溜息が出てしまう。

経済的に何不自由ない生活、忙しいけれど優しい両親、可愛い妹、穏やかで優しい級友たち。
勉強は嫌いじゃないし成績も悪くないし苛められている訳でもない。


なのに何をするのにも熱が入らない。

何も不満などない筈なのに。
不満など感じてはいけない筈なのに。

電車から降りて歩き出しながら学校に行くのが辛く感じる。
かと言ってサボる事など出来はしない。
もしも学校から家に連絡が入ったら両親に知られてしまう。

怒られる事など決してないと思う。
私がいきなり学校をサボったら「何か悩みでもあるの?」と母親は心配そうにそう言うだろう。
普段、大人しくて親に逆らった事などない優等生が具体的に何の悩みもなく学校をサボったりはしないものだから。

自分の小心さに腹が立つ。
周りの反応が怖くて道を踏み外す事など出来ない。


ぼぅっと歩いていると、ツ・・・と鞄が後ろに引っ張られる。
振り返ると誰かの服の飾りに鞄のキーホルダーが引っ掛かってしまっていた。

ああ、確かこれは妹が『お揃い』だと言ってくれた何かのキャラクターグッズ。
一瞬『余計な物を』と思い浮かべてしまう自分に嫌気がさす。
妹はあんなに私を慕ってくれているのに。
私はなんて冷たい姉なんだろう。


「あ、ワリィね」

キーホルダーが引っ掛かった服の持ち主がそう言って絡まったそれを解いてくれる。
見ればボロボロのシャツとジーンズにジャラジャラと飾りがたくさん付いている。
これだけ付けていれば、この人混みの中何も引っ掛からずに歩く事の方が難しそうだ。
私のキーホルダーより彼の方に原因があるのかもしれない。

見れば髪は色が抜けているし、耳には幾つもピアスが付いている。
所謂『軽くて遊んでいる』人なのだろう。
案の定、すぐに誘われたし。

すぐに謝ってくれたし、見た目ほど悪い人ではないのかもしれないけれど、派手な外見に派手な顔立ち。
丸い小さなサングラスから覗いた目は青かった。
そこまで派手にしてどうするんだろう?

断りを入れてさっさと離れる。
でも、学校に向かいながらふと考える。
彼の誘いに乗ったら、この日常が何か変わるのだろうかと。



そんな事を考えたからではないのだろうけれど、放課後、校門の傍で今朝の彼によく似た人が居て私を見て手を上げた気がしたが、ここは女子高だし名前も知らない今朝顔を合わせただけの私に用がある筈もないだろうと無視すると腕を掴まれた。

「オイオイ、待てよ!」

私に用があったのか。

「なにか?」

顔をよく見ると、確かに今朝会った人だった。
でも、今朝が初対面のはず。記憶にないから。

「わざわざ会いに来てやったのにその態度はないだろう?もちっとアイソ良くしろよ!」

愛想がないとは私が男の人からよく言われる言葉だが、知らない人に愛想を振りまいてどうしろと?
母にも「そんな必要はない」と言われているし。

腕を掴んでいる力が強くなって振り払おうとするけれど、細いけれど男の人の力には敵わないのか振り解けない。
そんな時、困っている私を見かねたクラスメートの一人が声を掛けてくれた。

「成島さん、大丈夫?」

その声は震えていたけれど、大変な勇気を振り絞ってくれた事が判る。
何しろ私の腕を掴んでいる男の人は柄の悪い不良のようだし。
声を掛けただけで彼が逃げ出す訳ではないだろうけれど、私が助けを求めればここはまだ校門を出たばかりの場所だし、先生を呼んで来て貰う事も出来るだろう。

だが、助けを呼ぶ必要はなかった。
私の腕を掴んでいた力は弱まり、不良は茫然と私の名前をフルネームで呟いた。
誰?知らない人のはず。

「どちら様ですか?」

そう問えば、ニヤリと笑ってこう答えた。

「ナミキカズハル様です。ヨロシク」

ナミキカズハル・・・聞いた覚えがない。
記憶を必死に辿るけれど思い出せない。
初対面じゃないの?

戸惑っている私にナミキさんはこう誘った。

「茶〜も悪くないけど、ホテル行かない?オレ、アンタとやりたくなっちゃった」


ホテルとはラブホテルの事で、やるとはセックスの事だろう。
このナミキと言う人とラブホテルでセックスをする・・・

多分、今日初めて会った人と経験してしまえば、私は変われるのだろうか?




制服のままで入ったら見咎められるだろうかと思っていたのだが、誰にも顔を合わせずに部屋まで来れた。
成程、プライバシーは尊重するように出来ているのか。

部屋の中にはベッドとソファーとTVモニターがあった。
普通のホテルとあまり変わらないように見える。

「シャワーどうする?先に浴びる?」

首を振るとナミキさんはバスルームへと消えた。

一人になって部屋をよく見て回れば、やはり普通のホテルとは違うようだ。
TVモニターの下には透明なケースの中に入って売っているものがあって、それは初めて見るものばかりだったし、TVの番組表にはアダルトなプログラムが多い。

取り敢えずソファーに座ってみる。
そうだ家に電話を入れないと。
いつも早く帰っているのに、遅くなると妹が心配するかもしれない。
鞄から携帯を取り出して家に掛ければ家政婦さんが出た。

「葵です。お父様とお母様は今日は?」

両親の帰宅時間について訊ねると、いつもと同じだとの答え。
相変わらず忙しいのね。

その時、バスルームのドアが開く音がした。
もうナミキさんが出てきたようだ。

「そう、今日は私も遅くなるかりますから夕飯はいりません。緋菜は?」

帰りがいつになるのか判らないので夕飯を断った。
妹はもう帰っているのか訊ねると、すでに帰宅していると言う。

「そう、代わって?・・・緋菜?いい子にしてる?」

思わずナミキさんに背を向けた。
妹に今の状況を携帯越しに見られているようで後ろめたかった。

『お姉ちゃん!』

無邪気な声が聞こえて、無邪気な笑顔が思い浮かぶ。

『あたし、いい子にしてたよ!今日はね、体育があったの。運動会の練習をしたんだよ』

妹の小学校では再来週に運動会がある筈だった。
その練習が始まったのだろう。

「そう、宿題は済んだ?」

『今日は宿題は出なかったよ』

「おやつは?もう食べたの?今日のおやつは何だった?」

『今日のおやつはまだ食べてないの。お姉ちゃんが帰って来てから一緒に食べようと思って』

「そう、お姉ちゃんは食べられないかもしれない。残念だけど」

家で私を待っている妹を放って置いてこんな所に来ているのに罪悪感を感じるどころか、妹が待っている事が負担だ と感じるなんて。
私はなんて酷い人間なのだろう。

『ええ〜!せっかく待ってたのに〜』

「ごめんね。今日はちょっと無理みたい」

『しょうがないな〜!じゃあ、明日は絶対一緒に食べようね?』

「うん。明日はきっと」

『約束だよ』

「うん。明日ね」

妹は少しごねただけで納得してくれた。
懐いてくれるのは嬉しいが、鬱陶しいとも感じる。
こんなに聞き分けのいい子なのに。

おやすみを言って携帯を切ると、ナミキさんが裸にバスタオルを巻いただけの姿で私のすぐ傍にいた。
そして私を見てぼんやりとしている。

整髪料で固めていた髪形が濡れて前髪が下りていた。
妙なサングラスを外して服を脱ぐと、ナミキさんは少し幼くて髪の色以外は普通の人のように見えた。

ナミキさんはさっきから私を見てぼぅっと立ったまま動かない。
部屋には空調が入っているので、そのままの格好だと風邪をひくのではないかと心配すると、ぼんやりとしたまま何か小さな声で呟いた。
聞こえなかったので聞き返すと。

「葵が看病してくれるなら風邪引いてもいいな」

ふざけた事を言いながら笑ってウインクまでしてきた。
笑うともっと幼く見える。

「どうする?シャワー浴びる?それとも、すぐスル?」

そうだった。
私はここにナミキさんとセックスをする為に来たのだった。

黙って制服を脱ぎ始めた私をナミキさんは黙って見ていた。
男の人の前で服を脱ぐなんて初めてだから恥ずかしかったけれど、これからもっと恥ずかしい事をするのだからと気力を奮い立たせて何とか全て脱ぎ終えた。
さすがに下着を脱ぐ時はナミキさんに背中を向けたけれど。

裸になっていつまでも立っている訳にもいかないのでベッドに入った。
けれど、それでもナミキさんはさっきと同じ場所に立ったまま動かない。

「しないんですか?」

もしかして、私の裸を見てするのが嫌になったのだろうか?
シャワーを浴びないのが気に入らないとか?

だけどナミキさんの答えは思ってもいない真剣なものだった。

「後悔しないよな?」

今更それを聞きますか?
後悔なんてしません。
いえ、後悔したいからこそナミキさんに抱かれようとしているのかも。

頷いた私を見て、ナミキさんは腰に巻いていたバスタオルを外してベッドに入ってくる。
さすがに男の人の裸をジロジロと見る事が少し躊躇われる。

「もしかして、初めて?」

誘いを断りもせずに付いて来たから慣れているのだと思われたのか。
少し腹が立つ。

「あ、ホントに?奇遇だね〜オレも初めて!」

能天気なほど明るくそう言われて、さらに腹が立つ。

「ウソ」

ナミキさんが初めてなら世の中の男性の殆どが未経験では?

「ウソかホントか確かめてみて」

さっきの明るい声とも、その前の真剣な声とも違う低い声で囁かれてドキッとする。
なんて色っぽい声を出すんだろか?この人は。

ナミキさんの身体が私の身体に近づいて、更にその派手な顔立ちをも近づける。
あ、瞳の色がお父様と同じ・・・これってカラーコンタクトなんかではない。本物だ。
そう言えばナミキさんの顔立ちは純粋な日本人ではないのかも。

思わず見惚れてしまったら、肩を抱き寄せられてビクリと震えてしまう。
ちょっと・・・怖いかも。

そんな私の怯えを感じ取ったナミキさんは、私を宥める様に抱き寄せた肩を優しく撫でた。
そして今まで見た事がない優しい笑顔を見せる。

「大丈夫だよ、葵。優しくするから」

この人は・・・ナンパした女の子にいつもこんなに優しくしてくれるの?
それならきっと、誘われた女の子達は喜んで彼の言う通りにするだろう。
私だってさっきまでの恐怖が少し軽くなったような気がするもの。

「葵・・・」

優しい顔から真剣な顔へと変わるナミキさんの表情。
この人は私に幾つ表情を見せるつもりなんだろう?
たくさん在り過ぎて、どれが本当の彼なのか判らなくなりそうだ。

近づいてくる顔に目を閉じる。
唇に触れる柔らかな感触・・・これがキス。

目を閉じた瞬間に零れた涙を彼がそっと拭ってくれる。
軽く何度も唇が触れては離れていく。
私の髪を彼が指で繰り返し梳いていく。

優しく触れていただけの唇が、顎を持ち上げられてから、私の唇を彼が挟むように触れてくるものに変わった。
息を止めているのが苦しくなって、口を開いた瞬間に彼の舌が入ってきた。

これは・・・フレンチ・キス?
てっきり舌を絡ませてくるのかと思っていたのに、彼の舌は私の歯茎や歯をなぞり出した。

他人の舌なんて気持ち悪いものだと思っていたのに、気持ち悪くはなかった。
ただ驚いて神経を刺激される。
息が上がって思わず声を漏らしてしまうと、彼が顔を離してしまった。

「苦しい?」

閉じていた目を開けると心配そうなナミキさんの顔があった。
苦しい訳じゃありません。
ただ慣れていないだけです。
こんなキスは初めてだったから。

「じゃ、もっとちゃんとしたキスをしようか?舌を出して」

彼の問いを否定するとナミキさんはそういって私を促す。
まだ恥ずかしくて少ししか出せない私の舌を彼はペロリと舐めた。
そして舌の上と下をなぞる様に絡ませてくる。

軽く触れているだけだった唇も強く押しつけるようになって、唇が強く吸われていく。
これがちゃんとしたキス?
思わず身体が硬直してしまう。

そんな私の身体をナミキさんは優しく撫で回す。
首から腕へと何度も何度も安心させるように。

「鼻で息をしてみな」

上手く息継ぎが出来ない私に彼がそう教えてくれる。
でも、顔が赤くなっているのはきっと息継ぎが上手く出来ないからだけじゃない。
ちゃんとしたキスはその後も何度も数えきれないくらい続いた。
私はただ目を閉じて唇と舌の感触を成すがままに受け入れる事しか出来なかった。

永遠に続くのかと思われた唇へのキスは当然ながらそんなに続く事はなくて、肩から腕へと優しく撫でていた彼の手が胸へと伸びてきた。
でも、その時にはもう抵抗する気力などなかった。
第一、それくらいで怯えていてどうするの?

だけど、彼が胸を触りながら耳や首などの身体を舌で嘗め始めるとくすぐったくて身体が無意識に逃げようとする。
どうして?そんなに身体中嘗め回す必要があるんですか?

そんな事をされていても私は眼を閉じたままで、視界を閉じて彼の手と舌の感触だけを感じていた。
それは初めての行為への恐怖からなのか、ナミキさんのまた違った顔を見るのが怖かったからなのか判らない。

次第に彼の舌は私の胸へと移って、仕舞いには乳首の周りをクルクルと舐めて吸い付いて来た。
ヤダ、赤ちゃんみたい!
痛いような、むず痒いような感覚が襲ってくる。
ヘンな声が出てくるし、恥ずかしい。

それでも、私は彼の行為を止めさせる事はなかったし、止めて欲しくもなかった。
少しずつではあるけれど、確かに段々と気持ちよくなって来ていたから。

でも、彼の指が背中から脚の間に伸びてきた時には思わず脚に力を入れてその指を阻もうとした。
後ろから差し込まれた指を止める事は難しかったけど。

「力、抜いて、葵。大丈夫、乱暴にしないから」

力む私を宥める様に彼が太腿を撫でながらそう囁く。
その低くて色っぽい声に、さっきと同じような優しい笑顔を浮かべているのかと目を開けた。

「大丈夫、痛くしないようにするから」

ああ、思っていた通りの笑顔がある。
この人は私が初めてだからこんなに気を使ってくれているのだろうか?
まるで本物の恋人にするように。
ただの行きずりの関係のはずなのに。

でも、それは幸運な事なのかもしれない。
クラスメート達が時折話す体験談では初めての時に優しくしてくれるのはたくさん経験を積んだ人か、とても相手を大切にしてくれている恋人ぐらいだそうだから。
私は経験豊富そうな彼と初体験を迎える事が出来てラッキーだったのかもしれない。

力を抜いた脚は広げられて、彼の指がまだ誰も触れた事のない場所へと入り込んでくる。
まだ自分でもあまり触れた事がない場所が濡れているのが彼の指の滑り具合で判る。
そうか、やっぱり彼が気持ち良くしてくれていたんだ。
今までのあのくすぐったいような感覚が気持ち良くなるっていう事なんだ。

濡れている筈の私のアノ場所は、それでも彼の指が入り込もうとすると痛みを感じた。
思わず身体が硬直して声が小さく漏れる。
彼はそんな私の反応を見逃さずに、あっさりとそこから指を離す。

そして別の場所に指を移動させると、私の全身がその場所に激しく反応した。
なに?この感じは?
一番敏感な場所に触れられたみたいな感じがする。
彼は軽く触れただけで、そんなに力を入れていた訳ではなさそうなのに。

私の敏感な反応に気付いたのか、彼はしきりとその場所を指で弄り続ける。
止めて欲しいような止めて欲しくないような、そんな不可思議でもどかしい気持ちになる。
でも、気持ちいいのは確かな事。

呼吸が激しくなって顔が、身体が熱くなる。
セックスは運動だと聞いたけど、まだしていないのにこんなに息が苦しくなるなんて。
ただ、気持ちよさに身体の力が抜けて来て、ひたすら目を閉じたままその感覚に溺れそうになっていた。

だけど、そんな私の脚をさらに大きく開いて、私の胸を銜えていた彼がその顔を脚の間に移動させたと判った時には、陶酔していた感覚が一気に冷めた。

「あ、やだ。そんな!」

思わず身体を起こして止めさせようとしたけれど、彼は止めてくれなかった。

「止めて下さい。汚いです」

シャワーだって浴びていないのに。
そうか、だから彼はシャワーを浴びるか聞いたのか。

「全然ヘーキ。キレイだよ」

私がお願いしても彼はそう言って平然と微笑み顔を埋めた。
本当に嫌なのに、恥ずかしいのに、彼は止めてくれない。
脚を閉じようにも、押さえつけられて無様に広げられたままだし。

困っていると、もっと困った事になった。
彼の舌の柔らかな感触が一番敏感な場所に届いて、さっきまでの指とは全然違うそれに大きな声が上がってしまう。

スゴイ、気持ちいい・・・
アソコを舐めるだなんて、自分では決して出来ないからなのか、全く未知の感覚だった。
とっても恥ずかしいけど、もっとして欲しい。

私の無言の願いを受け取ったのか、彼はビクビクと震える私のソコを舐め続けた。
猫がミルクを舐める様に音を立てて。

スゴク気持ちいい・・・だけど、こわい。
フワフワと身体が浮いているような安定感のない感覚とそこから落ちてしまいそうな恐怖が襲ってくる。

「いや、やめて・・・おかしくなる・・・」

快感は強過ぎると恐怖になる。
それは私が初めてだからなのだろうか?

「おかしくなってよ」

彼が、突然そう冷たく突き放す。
どうして?
今までは私が怖がると優しく宥めてくれたのに。

舌での愛撫も段々と乱暴なものに変わっていき、指が入り込もうとする。
さっきまでは触れられるのも痛かった場所が、彼の指を受け入れてしまう。
そしてそれは抜き差しを始めて、彼を受け入れる準備を私の身体が始めている事を理解させた。

私の中に入り込んだ彼の指は、中を探る様に曲げたり延ばしたりしている。
少しの痛みと出し入れされる感覚しかない私には彼が何のためにそんな事をしているのか判らなかった。
ただ、その痛みは彼の舌が与える快楽と綯い交ぜになって私を混乱させる。

呼吸はさっきよりも、もっと早くなって苦しくなり、私は何かにしがみ付きたくて腕を伸ばした。
彼の身体が私の下半身にあるので縋りつく事が出来ない。
私は仕方なくシーツを握りしめた。

すると、彼は敏感な場所に強く吸いついた。

「ああっ!」

思わず背中を剃り返らせて大きな声を上げてしまう。
物凄い快感と共に身体がベッドに投げ出されるように力が抜けた。


「気持ちよかった?」

彼に訊ねられてぼんやりと目を開けた。
ぼぅっとしていて答える事が出来ない。

「すっごく濡れてた。ホラこれが葵の味」

彼はそう言って濡れた指を2本、私の口元へと差し出す。
これを舐めろと?

でも、今まで彼が舐めていたものだし、正直興味もあったから素直に黙って彼の指を銜えた。
舌を絡ませてその味、とやらを確かめる。

ちよっと酸っぱいような、不思議な味だった。
彼の指は細くても私よりは太い骨ばった指で長かった。
何だか指ではないものを銜えているようで、そんな事を考えた自分が恥ずかしかった。

そんな私の考えを読んだのか、彼は指を私の口から抜いて、私の身体の上に圧し掛かる様にしてキスをしてきた。
私の一番敏感な場所を舐め回していた舌が、今度は私の舌を舐め回す。
本当なら汚いはずなのに、そんな事は少しも思わなくて、ただすごく興奮した。

彼の腕が私の背中に回されて、強く抱きしめられる。
広い肩にすっぽりと包まれてしまう。
私は決して小さい方ではないのに。
彼ももの凄く長身と言う訳ではなかったはずだけど、やっぱり私よりは大きい。
なんだかとても安心するような気持ちになる。

けれど、彼は私にキスをして抱きしめたまま、動こうとしない。
まさかこのまま?

「続きはしないんですか?」

私の問いに彼の身体がピクリと動いて、私の肩に埋めていた顔を上げて困った様に笑った。

「あのさ、悪いけどゴムないし。続きは次回に持ち越さない?」

そう言われて戸惑う。
だって私の脚に当たっている彼の・・・ソレは彼の脚よりも硬くて・・・それってその、彼もその気になっているということではないのかと思うのだけど。

それに次回って・・・これっきりではないの?
そんなに私としたくないのかしら?
初めてだと言ったから面倒になったとか?
処女は痛がって面倒くさいと敬遠されるとか聞いた事があるし。

でも、ここまで来て逃げられても困る。
あんな事までしておいて。

「ちゃんと最後までして下さい。遠慮はいりません」

そう、私が痛がっても泣いても叫んでも気にしなくていいですから。
けれど彼は私に当てていたものを腰を引いて離そうとした。
ダメ!
私は思わず、ソレを掴んでしまった。

「ちょっ」

彼は驚いて眉間に皺を寄せた。
も、もしかして強く掴み過ぎたとか?
そっと力を緩めてみるけど、手を離しはしない。
不思議な感触・・・これが・・・

私が握っていた力を緩めた事で彼はホッとしていた。

「優しくして、ナイーブな器官だから」

やっぱり強過ぎたのかと反省する。
手では強くなり過ぎるのなら、口では?
クラスメート達も言っていたし、男の人が喜ぶって。

「オイ!」

彼は私の行動に驚いていたけれど、私が口の中に入れると身体をピクリと震わせて黙った。
彼はシャワーを浴びているから汚くないはずだし、さっき彼も私のモノを舐めたんだからお互い様だけど、彼にとって気持ちいい事になるのかな?
私はもの凄く気持ちよかったけれど。

彼の息が荒くなって顔が赤いような気がする。
舌で舐め回すだけではダメなのかしら?
でも、大きくて銜えているだけで精一杯だし。

「や、やめろよ!そんな事するな」

彼が顔を真っ赤にしながらそう言ったけれど、身体が震えてる。
我慢しているのかな?

そうだ、口を上下に動かして激しくすればいいとか聞いた様な気がする。
そうしていると、彼が慌てたように叫んで私の肩を掴み、無理やり彼から引き剥がしたけれど、顔に何か白い液体が掛かった。
これが精液?

「わりぃ・・・気持ち悪いだろ?」

彼はそう言って、茫然としている私の顔を拭いてくれた。
相変わらず彼は私を気遣ってくれる。
行きずりではないから?
さっきもそんな事を言っていたし、次があるからなの?

「こんなコトすんなよ。初めてなのに」

彼が溜息を吐きながらそう漏らす。
初めてであんな事をしてはいけないのですか?

「でも、さっきあなたも私に同じ様な事をしていましたし」

咎められた様で少し腹が立つ。
さっき、さんざん私の身体を舐め回した癖に、私に舐められるのが嫌だなんて。

「嫌でしたか?」

出た、と言う事は気持ち良かったのではないんですか?
問い詰めるように訊ねると、彼は困ったような顔をして、それでも正直に答えてくれた。

「・・・イヤじゃありませんでしたけど・・・」

拗ねたように答える彼は年上のはずなのに何だか可愛い気がする。
こんな風に思うのはおかしいのかしら?
子供でもない男の人に可愛いだなんて。

「初めてなんだから、無理すんなよ。オレは葵が気持ちよくなればそれでいいんだし」

無理はしていません。
少し苦しかったのは確かな事ですが。
それに私を気持ちよくさせたいと言うのなら、どうしてこのままで終わらせようとするんですか?

「最後まですれば気持ちいいと聞いてますが」

彼はますます困った顔をしてチラリとベッドサイドにおいてある小さな包みを指差した。
ああ、あれがコンドーム?

「オレ、持ち合わせがないからさ。ここで止めとくか?」

ホテルに置いてある避妊具は悪戯されているから危ないと聞きましたが。

「別に構いませんよ、着けなくても。今日は大丈夫だと思いますし」

頭の中で先月の生理を思い起こしてみる。
多分、大丈夫。
ここまで私が言っているのに、彼は剥きになっている私をクスリと笑った。

「あんまし自棄になんなよ」

私は見透かされているようでドキッとした。

「自棄になっている訳では・・・」

語尾が小さくなって思わず顔を彼の視線から逃れる様に逸らす。
確かに彼の誘いに乗ったのは、男の人に抱かれれば何かが変わると思ったから。
自暴自棄ではないけれど、漠然と感じている日常への不満を解消したかったからだと言うことは否めない。

けれど、決して自棄になっている訳ではないと思う。
彼に抱かれてもいいと思ったのは、彼が見掛けに依らず優しかったから・・・私を気遣ってとても丁寧に抱いてくれたから・・・彼ならいいと思ったからなのに。

でも、彼はやっぱり初めて経験する様な女は面倒で嫌だったのかもしれない。

「ま、今回だけで済ますつもりはねーし。次はもっと気持ちよくさせてやるからさ」

本当に次があるんですか?
ニッコリと笑う彼に私は戸惑う。

私は彼にまた会いたいと思っているのか?
また会って、また彼に抱かれたいと思うのか?

「シャワー浴びてこいよ。あ、ソープやシャンプー使うと匂いでバレるから流すだけにしとけよ」

ベッドに横になってしまった彼に追いやられてしまう。
本当に今日はもう駄目なようだ。

大胆な事をしたのがそんなに気に入らなかったのだろうか?
でも、次って・・・

シャワーを浴びながら、彼に言われた通りにボディソープを使わずにタオルで身体を洗う。
彼が手で触れて舌で舐め回した私の身体。
その感触が甦って、背筋がゾクリとする。

女にはなっていないけれど、快感を覚えてしまった私の身体。
男の人に触れられるのは気持ちが悪い事だと思っていた。
ベタベタと触って、キスをして、身体の隅々まで見られるなんて。

でも、違った。
気持ち悪いどころか、とても気持ち良かった。
それは彼だからなのか?
それとも、私が女の身体になろうとしているからなのか?

それはまだよく解からない。

けれど、ナミキさんはまた次、と言った。
次に会えば判るのだろうか?

彼に対するこの気持が、快楽への欲求なのか?
それとも、もっと別の・・・まだよく解からない感情なのか?






 





































Postscript


「聖母の微笑」の葵ちゃんサイドです。

実はこれだけ和晴と葵の間では違いがありましたと言うお話。
な、長くなってしまったな・・・・

自分の周りや自分自身に不満を感じるのは思春期にありがちな感情ではないかと思います。
それが表に出るか出ないかの個人差があるだけで。

ここで初めてカズ兄の容姿について語っていますが(葵ちゃんは美形慣れしているのであまり称賛はしてくれませんが)彼は所謂ハーフですので、髪は元々黒いのですが眼が青い(事に急遽決めました。だから今までその事に言及していない)顔立ちも派手で当然ながらモテます。

葵ちゃんは実はファザコン気味なので、カズ兄の青い目にちょっとふらつきます(大笑)
今回の葵ちゃんは長い黒髪に黒い瞳の日本人寄りです。
でも、顔は母親より父親似かな?
元々両親は従妹弟同士ですから少し似ているので母親に似ていると言われればそうかも、という程度。
もちろん、妹の方が母親に似ています。

耳年増なのはカズ兄だけではなく、葵ちゃんもそうでした(笑)
まぁ、情報化社会の昨今ですし、女子高生ならある程度周りも経験してるし、何も知らないのはバカだぜ。
経験するしないに関わらず、私の世代だって知識だけはあったんですから。

ま、カズ兄は知ったか振りのお陰でチェリーだとはバレていないようですが(大笑)遊び人の誤解はされたままです。
果たしてそれが良かったのか悪かったのか?
これが今後も付いて回れば、誤解を解くのは大変です(自業自得)


タイトルは「未来予想図」と同様にドリカムの曲から(曲とは全然マッチしてないけど)
どちらかと言えば、あの歌詞はカズ兄の心情に近いのではと言うくらい違いますが(聞いていたのは徳永英明Verだし)
ただ、歌詞の最後『この出会いに優しいキスを、これが運命なら』は結構填まっていると思います。


拍手掲載期間 2009.7.13-14

 


 

 

 

 

 

 

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